ゆめの
いろ



わたしには夢があるんです。


その頃の森はとても危険なところでした。
森の空気はぎらぎらして、見たこともないポケモンがたくさんいました。
それに、森にやってきたポケモンたちはとても狂暴でした。
まるで狂っているかのように、暴れまわったのです。
わるい人たちがわるいことのために森に放していたからだと、後で知りました。
もしかしたら彼らもくるしかったのかもしれません。
くるしさをぶつける場所がなくて、わたしたちに向かってきたのかも。
とにかく、人間には危ない場所になっていました。
トレーナーでもないわたしには尚更危ないところです。
でもわたしは森が大好きで、例え森がどんなに危険でも、
身を守るすべがなくても、森に行かなければならなかったんです。
それはわたしがとくべつな森の子どもだからかもしれません。
そうじゃないかもしれません。
そんなのはどっちでもいいことです。

さて、わたしはその日もいつもの様に森に行きました。
けれど、森はどうにもわたしを怯えさせ、わたしは急いで目的地へ走りました。
それがいけなかったのでしょう。無我夢中に走るうち、道に迷ってしまいました。
いかに馴染んだとはいえ、森は森。
ほんのすこし、いつもの道から外れただけでもわからなくなります。
完全に迷ってしまったわたしは、薄暗い木々の下をきょろきょろと歩き回ります。
その時、くさむらががさがさと鳴り、背後からポケモンが飛び出したのです!
それは森の空気の様にぎらぎらした目で、わたしよりもずっと大きい長い身体を一直線に走らせ、
振り向いたわたしのすぐ目の前に。

ああ!そうしてわたしはあの人に会ったのです。
たいようの様に笑うあの人。赤いポケモントレーナー。
でんきねずみのピカを連れた、とても強いひと。
やさしい友だちだと言ったポケモンで、わたしを助けてくれたひと。
その出会いのなんとすばらしかったことでしょう!
なんと得たものの、大きかったことでしょう。言葉になど出来ません。
言葉にしてしまえば、この胸を打ち振るわせる想いが褪せてしまう。
そうしてかけがえのない友だちをくれたあの人は、たくさん怪我をして見つかった後、
わたしにやくそくをしてくれたのです。
ジムリーダーになれるくらい強くなったら、わたしに会いにきてくれると。
わたしのまちのジムリーダーになってっくれると言うのです。
そのやくそくが、わたしのむねの中で輝くことといったら!
あの人が行ってしまってからもけして衰えることはありません。
むしろ、思い返すたびに輝きを増すのです。
ほう、わたしはその眩しさにしばしば目をくらませ、ため息を吐きます。


わたしには夢があるんです。
いつか


森のなかでラッちゃんと遊ぶうちに、なんとなくではありますが、
ラッちゃんの想うことが分かるようになってきました。
目をつむり手をかざせば、わたしとラッちゃんのこころは繋がるのです。
それだけではありません。
わたしは傷ついたポケモンを癒すこともできるのです。
大人たちはそれがわたしに与えられた森の恩恵だと言います。
それはとてもよろこばしいことです。
わたしが森をあいするように、森もわたしをあいしてくれているのです。

ある日ふと思いました。
わたしは森をあいしています。わたしはラッちゃんをあいしています。
森はわたしをあいしています。ラッちゃんもわたしをあいしているでしょう。
だというのにわたしはあいするだけで、ほかに何かできるわけではないのです。
なんということでしょう!
森はわたしとポケモンのこころを繋いでくれる、すてきなわたしの故郷です。
ラッちゃんはわたしの一番のともだちで、あの人とつながる大事なきずなです。
わたしはこんなにも恩恵をうけながら、ただあいするだけなのです。
こんな裏切りはありません。おんしらずとののしられても仕方ありません。
わたしはさっそく森とラッちゃんのためにできることを探しました。
ラッちゃんのすきなものを探してみたり、森の木々に水をあげたり。
しかしわたしに与えられたものに代わるものなど、どこを探してもありません。
それほどわたしにくだされたものはすばらしいものでした。
わたしは考えました。何かできることはないのかと考え続けました。
そうしてある日思いついたのです。
あの人のようになろうと。
あの人のように誰かをまもれる人になろうと。
もちろんあの人はとても強くて、わたしなどはとても及ぶはずがありません。
第一、わたしはポケモンを傷つけることがきらいです。
どうしてあいするポケモンを傷つけたいなどと思うでしょうか。
いたい思いをするのはひともポケモンもきらいなのです。
だからポケモンを傷つけず、森もまもれるように強くなろうと思いました。
強くなれば、きっとジムリーダーになったあの人の役にもたてるでしょう。
とてもいい考えです。
同時にやっぱりあの人はすごいのだと確認できて、とてもうれしくなりました。

でも、この街にはそれを教えてくれる人がいないのです。
わたしはどうやって強くなればいいのでしょう。


わたしには夢があるんです。
いつかやさしいあの人の、


「…彼にあこがれているのね」
傷ついたピカチュウを探していると言ったひとは考え込みました。
わたしがあの人を知っていることが、森の恩恵を受けた子どもであることが、
一体この人にとって何だというのでしょう。
不思議がっていたわたしにそのひとは言いました。
手を貸してくれと。なんとあの人はいま危地に立たされていると言うのです!
「あなたには彼を助けられる力があるわ。…お願い、力を貸して!」
ことばなど、その時のわたしには必要ありませんでした。
ブルーと名乗ったその人は、わたしがあんなに知りたかった戦い方も、
あの人を助けるためにやるべきことも教えてくれました。
あとは歩きだすだけです。
ブルーさんの助言に従い、おとこのこに身を扮してマサラの町へ向かいました。
これがわたしの夢への第一歩。


わたしには夢があるんです。
いつかやさしいあの人の、助けとなれるよう。
森とともだちに語った夢。
そらに描いたゆめのいろ。