なんでもない日だった。
テレビの星占いはいつも通りいいのか悪いのか曖昧で。
遅刻でもなく早めでもなく学校に着いて。特に先生に当てられるわけでもなく。
そう。いつも通り。

そうして私は廊下を歩いていた。
別に強いてどこかに行きたかったわけじゃなく。
昼休みを過ごすのに最適な場所を探していただけ。
どこでも良かったんだ。

まばらに人が歩く廊下。
私の7歩前を歩いているのは一人の男子生徒。
なんだっけ。誰だっけ。あのツンツン頭。そっか。ダメツナだ。隣のクラスの。
たまに噂を聞くけど。本名なんだっけ。沢田、ナントカ。忘れた。
なんかかわいそうになるぐらいダメな人生送ってるんだとか。
そんなことをつらつら考えながら、沢田の7歩後ろを歩く。

すたすた。すたすた。すたすた。
廊下の端まで歩いて、階段前。
沢田は下に降りるらしい。なんとなしに私も下に向かう。
で。


「うわっ」
「待ったぁ!」
沢田が、足を滑らせた。
反射的に走って、襟首を掴んだ。で、思いっきり引き寄せた。
「ぐえっ」そして沢田の首が絞まった。

「あ、」
「ごっほごほ…」
やべ。とっさのこととはいえ、ちょっと助け方としては拙かったか。
ま、まぁでも、ほら、階段から落ちずに済んだし、ね?

「だ、いじょう、ぶ?」
「う、うん。なんとか…」
涙目でむせながら沢田がこっちを向いた。きゅん!(え、何きゅんて)
「ありがと。助かったよ」
「いや、あの別に。目の前で、落ちかけ、て、たから。つい」(あ、あれ?)
なんで私こんなどもってんの。いつもはもっとスムーズじゃない?

「でもお陰で落ちなくて済んだし。だから、ありがとう」
沢田はにっこりと音がするぐらい、綺麗に笑った。(あれ、あれ、ちょっと、あれ?)
なんだこれ。なんだこれ。なんで私こんな顔熱いんだ。待ってどきどきどき心臓うるさいよ!

「うぅんあの。ど、ういたし、まして」
「じゃ。オレ行くから」
「あ、あの!」(なんだこれ何で呼び止めてんの私)
「え?」
意表を突かれた顔で振り返った沢田に、固まった。
なんだ私。何言おうとしたんだ。頭が回ってないよどうしたんだ。
どうしようどうしよう何だっけ、何か言わなきゃ、言わなきゃどきどきどき!

「あの、な、まえ!」
うわ裏返ってる。声裏返ってるよ。ハズいよ。何こんな緊張してんの私。
ちょっと名前聞くだけじゃないか。大丈夫自然だ。不自然じゃないから!
「名前?」
「そう名前!えっと、おしえてくれま、せんか」
「ああ!オレは沢田。A組の沢田綱吉」
もう一回、きれいに笑った。






マジかよHoney


(これが 恋 か!)