「私は幸せよ、サーナイト」
「私は幸せなのよ、サーナイト」
「私ほどに幸せな女はそういないわ、サーナイト」
「私は、しあわせ、でしょう?ねえ。サーナイト」
「私は幸せよ幸せよ幸せよ幸せなのよそうでしょうサーナイト」
「私は幸せ幸せ幸せ幸福よ倖せよ、ねえサーナイト、そうでしょうサーナイト!」
「サーナイト、サーナイト?どうしたの、」
「どうして答えてくれないの」


私は従者です。ただの従者なのです。マスターに従うものです。マスターの幸福を誰よりも願わなくてはいけません。いいえ誰よりも願っています。そうであるなら、従者風情がマスターの幸福を阻むことがあってはならないのです。マスターのおっしゃる幸せが、幸せではないと知っていてもそのようなこと、思うことすら罪なのです。だから私は何もすることが許されないのです。何もしてはならないのです。あの男がマスターを苦しめていようとマスターはそれすらも幸せだとおっしゃるのです。苦しみを伴わぬ幸福など無いとおっしゃるのです。私は何もしてはなりません。マスターが望んでいるのです。たとえ毎日毎日滂沱と涙を流されようと私はその涙を拭いて差し上げることも、まして止めて差し上げることも出来ないのです。私にはそれすら許されていないのです。いっそあの男を殺してしまおうかと考えたことすらあります。それは最も正しい判断のようで最も愚かしい選択です。それではマスターの涙は永遠に流れ続けるのです。マスターが幸せになるにはあの男でなくてはいけないのです。ああ私は従者です。従者風情です。マスターの涙を見て心を痛めることは出来ても、マスターの笑顔に救われていようと、マスターの痛みを和らげて差し上げることも、お救いすることも出来ないのです。幾度も幾度もそんな幸せをお止めしようと思っては思い止まるのです。私は従者です。従者なのです。マスターの幸せを願わなくてはならないのです。たとえあの男を排除してしまうことが叶っても、私ではマスターを幸せにして差し上げることが出来ないのです。ああマスター、マスター、泣かないで下さい。泣かないで。私では駄目なのです。
私では駄目なのですか。




目がつぶれるような


うそで僕をだまして


くれませんか

(そうでなくては、私は)