ざあざあと音を立てる雨は一向にやむ気配がない。

「こまったな」
「こまりましたね」


 

前触れもなく降り出して来た雨に、急いで避難してきた木の下には先客。
どうもお邪魔しますと声をかけたらおうと返ってきたので反対側に座り込んだ。
しばらくぼたぼた落ちる雨をぼーっと眺めて、気づいた。

なんか喋った。


「やまないな」
「やみませんね」


気のない返事をしながら顔を向けると、やっぱり見たままだった。
そうだよなぁ。こんな至近距離で見間違いとかないよなぁ。


「やっぱり背中のトゲトゲは雨に弱いんでしょうか」
「いやいや馬鹿言っちゃいけねぇ。こちとらサンドの時分から、水なんてのァ縁がねぇのよ」
「要するに雨に弱いんですね」
「まぁ、そう言うな嬢ちゃん。雨宿りしてる仲じゃねぇか」


流暢なべらんめぇ口調で先客のサンドパンは言った。
イッツ・シュール。
ちょっと自分の頭を疑ったほうが良いかもしれない。


「サンドパンさん、人間の言葉お上手ですね」
「おう。ここまで来るのに3年8ヶ月…」
「どうかしましたか」
「やべ。人間の前で喋っちまった」


ダメだったのか。3年8ヶ月頑張ったのに。

なんで頑張ったんだ3年8ヶ月。あれか、ネタとかそんなのか。




「まずいんですか」
「おう。やべぇ」


きっぱり言われた。言われても、どうしたらいいのか。私だってさっぱりだ。


「こまったな」
「こまりましたね」


沈黙。どうにかする気はないのか。ないんだろうな。なんて発展しない会話だ。
ざあざあ。雨は一向にやむ気配はない。この沈黙がやむ気配もない。


―気まずい。なんていうか、自信があった一発ネタが盛大にすべった様ないたたまれなさ。なんでネタ披露された私の方が気まずい思いしてるんだろう。いやネタじゃないけど。だいたいあれだ。他に誰かいるわけでもなし。今から帰ってポケモンが喋った!とか言いふらしても、寝ぼけてんじゃねーのかなんて笑われるのがオチだ。あれ?これなんか問題あるのか?ないよね?ないだろ。


「じゃあ、ほら、私は雨がやんだら帰りますし。見なかったふりしますよ」
「聞かなかったふり、の間違いじゃねえか」

「まぁ、そう言わないでください。雨宿りしてる仲じゃないですか」


二人で噴き出した。一人と一匹かな。
ほーら問題ない。よって気にしない。もうなんか楽しくなってきた。


「せっかくだからお話しましょうよ、雨がやむまでなんだし」



どうせ聞かなかったふりするんですから、細かいことは気にしません。

一瞬静かになって、それからげらげら笑う声がした。




「ああ全く細けぇな。どうでもいいな、そんなこと」




そうだな雨がやむまでな、とサンドパンさんは軽快に笑った。
すごく軽く笑い飛ばすもんだから、潔いなぁ男前ですねと思わず言った。
馬鹿、俺に惚れちゃあいけねえよと、言い切ったサンドパンさんはやっぱり男前だった。






おおきな栗の木の下で


(あなたとわたし)