たとえば何がしたいのかと問われると、なにもとしか答えようがない。では何がしたかったのと問われても、なにかとしか答えられない。欠落。


「ねえ」
「なに」

ぼんやりとしたままの頭を軽く向ける。いつ見たってやる気のなさそうな顔だ。黒なのか紫なのかはっきりしない瞳は、無感動にわたしを映す。

「そこで寝そべられると大いに邪魔なんだけど」
「んー」

素直に謝る気はサラサラなかったので、適当な返事をしながら転がって部屋を縦断する。背後から呆れたような溜息が聞こえたが、知ったことじゃない。今のわたしは転がりたいんだ。フローリングの床を駆け抜け、ベッドにぶつかった時点で停止。そこを今日の居場所と決めた。今決めた。飛び込むとやわらかなシーツはわたしを当然の様に受け止めた。

「なにがしたいのさ」
「なんだろうね」

もうひとつ溜息を吐いて、ゲンガーが手を伸ばした。立てと言いたいのか。もちろんお断りなので、無視して代わりに腕に目をやった。白い腕だ。細さも相まってとても男の腕に見えない。むしろ自分よりよっぽど女らしい腕な気がする。なんだか面白くない。伸ばされた腕を掴み、そのまま強く引く。

「う、わ」

予想通り華奢な体が倒れこんできた。受け止める気はなかったので、あちこちぶつかって多少痛い。なにするのと抗議が聞こえた気がする。気のせいか。気のせいだ。無視してそのお綺麗な顔にキスをした。額に、瞼に、頬に、唇に。引き寄せたら、相変わらず指触りのいい髪がさらさらと揺れた。

「本当、なにがしたいわけ」
「少なくとも今はキスがしたい」
「ああそう」

もう一度引き寄せて、今度は吐息ごとキスをした。


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