「そんな時期もあった」 そう、とそっけなく呟いてゲンガーは本に目をやった。パラパラとページを捲る音だけが、やけに響く。私はおもむろに立ち上がり窓を目指す。ゲンガーを背に見る空。曇天。 「なに見てるの」 そう、とそっけなく呟いて、視線が落ちた。らしい。背を向けていてもわかることはある。私は気にせず空を見続ける。雲は所狭しと詰まって、ちっとも動きはしない。視界一杯の白濁色。だからどうってわけじゃない。 「厭きないの」 パラパラとページを捲る音がする。ふと吸い込んだ空気は湿っている。けれど雨は降らない。窓に寄りかかると硝子の冷たい肌触り。晴れもせず、崩れもしない天気は曖昧さを助長する。ちょうど今の私たちみたい。なんて陳腐にもほどがある。硝子が体温でぬるくなった。 「ゲンガー」 ため息一つ。愛の告白に対して、なんてつまらない答えだろう。抗議をしようと振り向いたら目が合った。視界は黒。だからどうだというのか。 「飽きないの」 パタンと音をたてて本が閉じられた。暗転。
だからってどうもしなかった。 |