愛してる。飽きもせずに何度となくささやいた。
世界は馬鹿みたいに奇麗で。
明日は今日の続きだと思ってた。



「そんな時期もあった」
「なに、いきなり」
「いや。思いついただけ」

そう、とそっけなく呟いてゲンガーは本に目をやった。パラパラとページを捲る音だけが、やけに響く。私はおもむろに立ち上がり窓を目指す。ゲンガーを背に見る空。曇天。

「なに見てるの」
「外」
「他に言いようはないわけ」
「ないね」

そう、とそっけなく呟いて、視線が落ちた。らしい。背を向けていてもわかることはある。私は気にせず空を見続ける。雲は所狭しと詰まって、ちっとも動きはしない。視界一杯の白濁色。だからどうってわけじゃない。

「厭きないの」
「飽きないね」

パラパラとページを捲る音がする。ふと吸い込んだ空気は湿っている。けれど雨は降らない。窓に寄りかかると硝子の冷たい肌触り。晴れもせず、崩れもしない天気は曖昧さを助長する。ちょうど今の私たちみたい。なんて陳腐にもほどがある。硝子が体温でぬるくなった。

「ゲンガー」
「なに」
「愛してるよ」

ため息一つ。愛の告白に対して、なんてつまらない答えだろう。抗議をしようと振り向いたら目が合った。視界は黒。だからどうだというのか。

「飽きないの」
「厭きた」

パタンと音をたてて本が閉じられた。暗転。 だからってどうもしなかった。




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